Period-Mathematics

S_5の可解な可移部分群の決定

本稿はhttp://repository.hyogo-u.ac.jp/dspace/bitstream/10132/1612/1/ZD30301003.pdfの前半の内容で述べられているS_5の可解な可移部分群の決定の行間を埋めたものである。以下「H<G」でHGの部分群であること、「H\sim K」で部分群H,Kが共役であることを表す。


唐突だがS_5の三つの部分群を定義する。

F_{20}=\langle\sigma , \tau\rangle, F_{10}=\langle\sigma , \tau ^2\rangle,F _5=\langle\sigma\rangle

(\sigma =(1 2 3 4 5),\tau =(2 3 5 4))

例えばF_5を具体的に書き出してみるとF_5=\{e,(12345),(13524),(14253),(15432)\}となる。

実はここで次が成り立つ

[主定理]
S_5の可解な可移部分群はF_{20},F_{10},F_5のいずれかに共役。従って可移部分群 H < S_5に対して
 Hは可解\iff H F_{20}のある共役に含まれる

これは我々の欲するものである。本稿の目標はこれを証明することである。*1

本稿では群の作用や軌道・固定群定理について読者は知っているものとする。

これら三つの群について

F_5\cong C_5,F_{10}\cong D_{10}は簡単にわかるがF_{20}は簡単な群で表せるようには見えない。しかしこれはperiod-mathematics.hatenablog.comでも少し触れたが、実は1次のアフィン一般線形群AGL_1(\mathbb{F}_5)と呼ばれるものに等しく、これはある正規部分群N\cong C_4と部分群H\cong C_5との半直積N\rtimes Hに等しい(ちなみにNは平行移動のなす群、Hはスカラー倍のなす群である。詳細は例えば[cox][p.165]を見よ)。

ちなみにこれは5次のフロベニウス群とも同型である。*2

これらの可解性は以下のようにシローの定理で示すことができる

(*) F_5S_5およびF_{20}の5シロー部分群であるから、F_{20}におけるF_5の共役の個数は(F_{20}:N_{F_{20}}(F_5) )に等しい。またF_{20}>N_{F_{20}}(F_5)\rhd F_5に注意すればこれは(F_{20}:F_5)=4の約数であり、シローの定理より{\rm mod}\ 5で1に等しいからこれは1である。従ってF_{20}\rhd F_5\rhd 1よりF_{20}の可解性がわかり、その部分群も可解であることから主張が従う。

位数30,40の部分群が存在しないこと

まず有限群の解析における重要な道具である置換表現を復習しよう。

[定義]
Gを群、Hをその部分群とする。

このときGG/H上に\varphi _a:gH\mapsto agH (a\in G)によって作用する。これにより群準同型\varphi :G\to S_{G/H};a\mapsto \varphi _aが定まる。

これを部分群Hの定めるGの置換表現という。

ここで次は基本的な性質である。

[命題]
{\rm Ker}(\varphi )<H.
証明
a\in {\rm Ker}\varphiとするとaH=H\iff a\in Hより{\rm Ker}(\varphi )<H
証明終了

これを用いてS_5を解析してみよう。

[定理]
S_5は位数30,40の部分群を持たない
証明
G:=S_5の部分群Hの位数が30だと仮定する。このときHの指数は4であるからHの定める置換表現\varphi :G \to S_4が存在して{\rm Ker}(\varphi )<H.

ここでG\rhd {\rm Ker}(\varphi )であるから1,A_5,S_5のいずれかである。しかし|H|=30ゆえ{\rm Ker}(\varphi )=1でなければならず、G=S_5からS_4単射が入ることになり矛盾。もう一方も同様。
証明終了

本題の証明

基本的な補題を確認しておく(証明は容易である)

[補題]
H,K<GXGの任意の部分集合とするとき以下が成り立つ。

  • K\rhd H\iff N_G(H)>K(等号成立条件はG=K
  •  G>H\Rightarrow N_G(X)\rhd N_H(X)
  • H\sim K\Rightarrow N_G(H)\sim N_G(K)

またS_nの元の位数の最大値はnであることにも注意する(サイクル分解を考えればわかる)。


主定理の証明

GS_5の可解な可移部分群とすると、5| |G|(\because 軌道・固定群定理)かつ|G| |120=|S_5|と上で示した定理を考慮すれば|G|の候補は5,10,15,20である。
|G|=5のとき,GS_5の5シロー部分群よりG\sim F_5
|G|=15のとき,これは巡回群であるが*3S_5が位数15の元を含むことになりこれは矛盾。
|G|=20のとき,Gの5シロー部分群Pは、シローの定理からG\rhd Pであるから補題よりG=N_G(P)である。この場合もいったん保留する。

さて、保留された共役性を示そう。(*)と同様の議論をする。まずそこで導かれたF_{20}\rhd F_5補題を合わせればN_{S_5}(F_5)\rhd N_{F_{20}}(F_5)=F_{20}を得る.
同様にS_5におけるF_5の共役の個数は(S_5:N_{S_5}(F_5))に等しい。またS_5>N_{S_5}(F_5)\rhd F_{20}に注意すればこれは(S_5:F_{20})=6の約数であり、シローの定理より{\rm mod}\ 5で1に等しいから1または6であるが1であるとするとN_{S_5}(F_5)=S_5となるがこれは容易に矛盾だとわかる*4。よってN_{S_5}(F_5)=F_{20}。故にG\cong F_{20}であればある5シロー部分群Pが存在してG=N_{S_5}(P)と書ける*5。ここでP\sim F_5補題よりG=N_{S_5}(P)\sim N_{S_5}(F_5)=F_{20}である*6から|G|=20のときは解決。
またG\cong F_{10}であるとする。Gはある5シロー部分群Qを含むが、Gを適切にその共役G'に移すことでその5シロー部分群がF_5となるようにできる。このとき(G':F_5)=2よりF_5G'正規部分群である。従って\zetaG'の位数2の元とすると\zeta^{-1}\sigma\zeta\in F_5=\langle\sigma \rangleとなり,G'\cong D_{10}であることから\zeta^{-1}\sigma\zeta=\sigma^{-1}=(15432)とならねばならない。これを満たす\zeta\zeta=(25)(34),(15)(24),(14)(23),(13)(45),(12)(35)であり、どれを選んだとしても\langle\zeta,\sigma\rangle=F_{10}となることが計算によってわかる。従ってG\sim G'=F_{10}となり|G|=10のときも解決。*7

逆にF_{20},F_{10},F_5のいずれかに共役であるとする。F_{20},F_{10},F_5は長さ5のサイクルを含むのでこれらは可移で、また(*)より可解でもある。以上より主張が従う。
証明終了

[1]http://www.isc.meiji.ac.jp/~kurano/soturon/ronbun/04kurano.pdf
[cox]ガロワ理論(上)・(下) デイヴィッド・A. コックス (著), 梶原 健 (翻訳)

*1:より一般的な命題として「p素数とするときS_pの可解な可移部分群は(1\,2\,\cdots ,p)を含むAGL_1(\mathbb{F}_p)の部分群に共役」というものがある([cox]命題14.1.4])。これはガロアの方程式論における有名な結果「p素数fp次既約多項式とするとき、fが可解\iff fの任意の異なる二解による係数体の拡大体が全てfの最小分解体\iff fガロア群はAGL_1(\mathbb{F}_p)の部分群と同型」の証明の中心となるものである。この定理はガロア群が本質に関わってくることからガロア自身、とても気に入っていたようである

*2:文献によってはメタ巡回群とも呼ばれている。一般にフロベニウス群はメタ巡回群である。このようにいろいろと性質を持ってかつ位数も比較的小さいのでそういう意味で重要な例なのではないかと思う。

*3:証明は例えば[1]の例7.2

*4:例えば(12)^{-1}(12345)(12)=(13452)\notin F_5

*5:F_{20}\cong Gの同型をfとすると、G=f(F_{20})=f(N_{S_5}(F_5) )=N_{S_5}(f(F_5) )よりP=f(F_5)と置けばよい

*6:一般に素数pに対してN_{S_p}(<(1\, 2\,\cdots p)>)=AGL(1,\mathbb{F}_p)である。証明は[cox][p.557,補題14.1.2]。

*7:PDFの方には「N_{S_5}(F_5)=F_{20}>F_{10}より,あるGの5シロー部分群Qが存在してG<N_{S_5}(Q)であるのでG\sim F_{10}」というようなことが書いてあるのだが正直よく意味が解らない。もしこれの意味が分かる方がいましたら是非教えて下さい