本稿はhttp://repository.hyogo-u.ac.jp/dspace/bitstream/10132/1612/1/ZD30301003.pdfの前半の内容で述べられているの可解な可移部分群の決定の行間を埋めたものである。以下「」でがの部分群であること、「」で部分群が共役であることを表す。
唐突だがの三つの部分群を定義する。
例えばを具体的に書き出してみるととなる。
実はここで次が成り立つ
の可解な可移部分群はのいずれかに共役。従って可移部分群に対して
は可解はのある共役に含まれる
本稿では群の作用や軌道・固定群定理について読者は知っているものとする。
これら三つの群について
は簡単にわかるがは簡単な群で表せるようには見えない。しかしこれはperiod-mathematics.hatenablog.comでも少し触れたが、実は1次のアフィン一般線形群AGLと呼ばれるものに等しく、これはある正規部分群と部分群との半直積に等しい(ちなみにNは平行移動のなす群、Hはスカラー倍のなす群である。詳細は例えば[cox][p.165]を見よ)。
ちなみにこれは5次のフロベニウス群とも同型である。*2
これらの可解性は以下のようにシローの定理で示すことができる
位数30,40の部分群が存在しないこと
まず有限群の解析における重要な道具である置換表現を復習しよう。
を群、をその部分群とする。
このときは上にによって作用する。これにより群準同型が定まる。
これを部分群の定めるの置換表現という。
ここで次は基本的な性質である。
とするとより。
証明終了
これを用いてを解析してみよう。
は位数30,40の部分群を持たない
の部分群の位数が30だと仮定する。このときの指数は4であるからの定める置換表現が存在して
ここでであるからのいずれかである。しかしゆえでなければならず、からへ単射が入ることになり矛盾。もう一方も同様。
証明終了
本題の証明
基本的な補題を確認しておく(証明は容易である)
またの元の位数の最大値はであることにも注意する(サイクル分解を考えればわかる)。
主定理の証明
をの可解な可移部分群とすると、( 軌道・固定群定理)かつと上で示した定理を考慮すればの候補は5,10,15,20である。
のときはの5シロー部分群より。
のとき,これは巡回群であるが*3、が位数の元を含むことになりこれは矛盾。
のとき,の5シロー部分群は、シローの定理からであるから補題よりである。この場合もいったん保留する。
さて、保留された共役性を示そう。(*)と同様の議論をする。まずそこで導かれたと補題を合わせればを得る.
同様ににおけるの共役の個数はに等しい。またに注意すればこれはの約数であり、シローの定理よりで1に等しいから1または6であるが1であるとするととなるがこれは容易に矛盾だとわかる*4。よって。故にであればある5シロー部分群が存在してと書ける*5。ここでと補題よりである*6からのときは解決。
またであるとする。はある5シロー部分群を含むが、を適切にその共役に移すことでその5シロー部分群がとなるようにできる。このときよりはの正規部分群である。従ってをの位数2の元とするととなり,であることからとならねばならない。これを満たすはであり、どれを選んだとしてもとなることが計算によってわかる。従ってとなりのときも解決。*7
逆にのいずれかに共役であるとする。は長さ5のサイクルを含むのでこれらは可移で、また(*)より可解でもある。以上より主張が従う。
証明終了
[1]http://www.isc.meiji.ac.jp/~kurano/soturon/ronbun/04kurano.pdf
[cox]ガロワ理論(上)・(下) デイヴィッド・A. コックス (著), 梶原 健 (翻訳)
*1:より一般的な命題として「を素数とするときの可解な可移部分群はを含むAGLの部分群に共役」というものがある([cox]命題14.1.4])。これはガロアの方程式論における有名な結果「を素数、を次既約多項式とするとき、が可解の任意の異なる二解による係数体の拡大体が全ての最小分解体のガロア群はAGLの部分群と同型」の証明の中心となるものである。この定理はガロア群が本質に関わってくることからガロア自身、とても気に入っていたようである
*2:文献によってはメタ巡回群とも呼ばれている。一般にフロベニウス群はメタ巡回群である。このようにいろいろと性質を持ってかつ位数も比較的小さいのでそういう意味で重要な例なのではないかと思う。
*3:証明は例えば[1]の例7.2
*4:例えば
*5:の同型をとすると、よりと置けばよい
*6:一般に素数に対してである。証明は[cox][p.557,補題14.1.2]。
*7:PDFの方には「より,あるの5シロー部分群が存在してであるので」というようなことが書いてあるのだが正直よく意味が解らない。もしこれの意味が分かる方がいましたら是非教えて下さい