Period-Mathematics

多項式のガロア群の計算~PARI/GP入門~

「与えられた多項式ガロア群を求めたい」という古典的欲求に応えるものとして今日では計算機が役に立つが今回はPARI/GPというものを採用したいと思う。これについてはperiod-mathematics.hatenablog.comでも「アルゴリズムの計算の実例」という節の始めで紹介している。そこにも書いてある通りこれを選んだのは単純に使いやすく、わかりやすく、またなんといってもスマホ(ただしAndroid限定)に対応しているからである(Androidでは「PariDroid」というアプリ名でGoogle Playストアを探せば出てくる、現在では)。ダウンロードリンクなどもそこに貼ってある。


例1(使い方を知る)

さていきなりであるが今回の問いに答えるコマンドは「polgalois」というものである。これを使うと7次以下の既約多項式ガロア群を計算することが出来る。さっそく試してみよう。

例はperiod-mathematics.hatenablog.comにある f(x)=x^3+x^2-2x-1を使ってみよう。この記事によるとガロア群は三次の巡回群とのことである。これを確かめよう。


1.まずはこの多項式を定義する

コマンド

gp > f(x)=x^3+x^2-2*x-1


2.次に先ほどの「polgalois」を使ってみよう

コマンド

gp > polgalois(f(x))


すると

%2 = [3, 1, 1, "A3"]

と出力されるはずである。念のため計算画面を見せておくと以下のようになる*1

f:id:period_mathematics:20190503194931p:plain



さてこれが何を意味しているかが問題である。polgaloisコマンドで出力される型は

[ガロア群の位数、符号、番号、CHMラベル]

というものになる。



ガロア群の位数は大丈夫だろう。今回なら位数は3である(この時点で三次巡回群であることは群論の知識から確定はする)。

符号、番号は気にしなくてよいだろう。CHMラベルというもの*2だがこれも気にせず以下の対応表を見ればよい(画像はhttp://math.mit.edu/~brubaker/PARI/PARIusers.pdfのp.125より)

f:id:period_mathematics:20190503193810p:plain

ガロア群)=[ガロア群の位数、符号、番号]という形で書かれておりこれにより、今回の場合はA_3=C_3= [3, 1, 1]とあるので、ガロア群はA_3、すなわち三次交代群(=三次巡回群)であることがわかる。


例2(見慣れない群が出てきたときには)

もう一つ例を計算してみよう今度はよく可解な五次方程式の例として出てくるx^5+15x+12を扱う

gp > polgalois(x^5+15*x+12)

と打つと以下のように出てくる

[20, -1, 1, "F(5) = 5:4"]

これは先ほどの表で見るとM_{20}= [20, -1 ,1]と書いてある。位数20の群であることはわかるがM_{20}という記号は見覚えがない。これはなんであろうか?


これは実はフロベニウス群と呼ばれるもので、
peng225.hatenablog.com
F_{20}として紹介されている(この一連の記事はとても面白いものなので余裕がある読者は是非一読されたい*3)。

このように(恐らく多くの読者にとって)なじみの薄い群が出てくるものもある。こういうときはどうすればいいか、という話なのだが実は

n次既約多項式ガロア群はS_nの可移(推移的な)部分群

ということが知られている。これについてはそこの記事に書いてあるのでそこを参照されたい。ここでS_nの可移部分群は既に研究されていて例えば以下のようなサイトに多項式でいえば31次多項式までに相当する可移部分群のリストがまとめられている*4

https://people.maths.bris.ac.uk/~matyd/GroupNames/T31.html

n次既約多項式ガロア群を探しているなら「On n points」というところを見ればよい。「ID」のところの最初の数字が群の位数である*5。PARI/GPで出てくる既約多項式ガロア群は必ずこれの中のどれかになるはずであるからもしわからない群が出てきたらこのようなサイトをもとにいろいろと調べることが出来る。

*1:いきなりpolgalois(x^3+x^2-2*x-1)でもよい

*2:対称群の可移部分群を調べたとある論文に出てくるものらしい?

*3:実はPARI/GP(がAndroid対応であること)をこのブログで知った

*4:わかりやすさのためにこう書いたが要は濃度が31までの集合に作用する対称群の可移部分群のリストのことである

*5:これらが全てnの倍数になっていることに気が付くであろう。これはS_nの可移部分群の最大の特徴である