Period-Mathematics

可解な5次方程式のべき根による構成的解法

はてなブログでMathjaxを使うとギリシャ文字を含む文章が読み込まれなかったりするという不具合があるそうです。何回かリロードあるいはPC版サイト表示などを試すと読み込まれると思います)

本稿はDummitによる1991年の論文"Solving solvable quintics"で与えられている可解な五次方程式を代数的に解く方法について解説する(ここでは$\mathbb{Q}$係数として議論を展開する。一般の体係数であってもほぼ同じであるはずである)なお本稿では標準的なガロア理論の知識を完全に仮定する。その和訳であるhttp://repository.hyogo-u.ac.jp/dspace/bitstream/10132/1612/1/ZD30301003.pdfも参考にした*1。本稿はただこれの行間をただ埋めたものであるが、恐らく需要はそれなりにあるだろうと思う。筆者自身が後から簡単に見返せるように、という目的も含んでいる。余裕のある時に、一般的の次数に対しても出来る議論は一般化したいと思っているので、既に気付いた読者はご一報いただけるとありがたい。

また過去の記事の内容をいくつか引用する。例えばにおいて$S_5$の三つの部分群を定義した。

$F_{20}=\langle\sigma , \tau\rangle, F_{10}=\langle\sigma , \tau ^2\rangle,F _5=\langle\sigma\rangle$

$(\sigma =(1 2 3 4 5),\tau =(2 3 5 4))$

これらの性質や記号は積極的に使っていく。以下$\mathbb{Q}_f,\Delta_f$でそれぞれ$f$の最小分解体、判別式の正の平方根を表す。

可解性の判定

以下$ x_{1}, x_{2}, x_{3}, x_{4}, x_{5}$を解に持つ$\mathbb{Q}$係数五次多項式
$f(x)=x^{5}-s_{1} x^{4}+s_{2} x^{3}-s_{3} x^{2}+s_{4} x-s_{5}$
を考える。これの根を代数的に求めることを考えていく。

ここで以下のような$\mathbb{Q}_f$の元を考える

[定義]
$ \theta:= x_{1}^{2} x_{2} x_{5}+x_{1}^{2} x_{3} x_{4}+x_{2}^{2} x_{1} x_{3}+x_{2}^{2} x_{4} x_{5}+x_{3}^{2} x_{1} x_{5}+x_{3}^{2} x_{2} x_{4}+x_{4}^{2} x_{1} x_{2}+x_{4}^{2} x_{3} x_{5}+x_{5}^{2} x_{1} x_{4}+x_{5}^{2} x_{2} x_{3}$

これは本稿の議論におけるキーとなる量の一つである(ではresolvent invariantと呼ばれている。)。それは以下の命題による。

[命題]
$S_5$の$\mathbb{Q}_f$への作用を考えたとき、$ \theta$の固定部分群はちょうど$F_{20}$である
証明
そのためには$ 20=|F_{20}|=|H|\iff (S_5$による$ \theta$ の軌道の濃度)$ =(S_5:H)=6$を示せばよい。$ H$を$ \theta$の固定部分群とするとまず$ F_{20}$$<$$H$は自明。

$ F_{20}$では不変であったのだから$ S_5/F_{20}$の元の軌道を考えれば$ S_5$の元は全て作用させたことになる。ここで集合として$ S_5/F_{20}=S_3$となるよう代表元を選べることが確かめられる*2ので、$ S_3$の元を作用させればよく、それらがすべて異なっていればそれは即ち$ S_5$による$ \theta $の軌道の濃度が6であることを意味しているので$ H=F_{20}$が言える。実際以下を見ればこれらが確かに全て相異なる元であることがわかる


$ \theta_{1}= \theta= x_{1}^{2} x_{2} x_{5}+x_{1}^{2} x_{3} x_{4}+x_{2}^{2} x_{1} x_{3}+x_{2}^{2} x_{4} x_{5}+x_{3}^{2} x_{1} x_{5}+x_{3}^{2} x_{2} x_{4}+x_{4}^{2} x_{1} x_{2}+x_{4}^{2} x_{3} x_{5}+x_{5}^{2} x_{1} x_{4}+x_{5}^{2} x_{2} x_{3}$

$ \theta_{2}=(123) \theta_{1}=x_{1}^{2} x_{2} x_{5}+x_{1}^{2} x_{3} x_{4}+x_{2}^{2} x_{1} x_{4}+x_{3}^{2} x_{3} x_{5}+x_{3}^{2} x_{1} x_{2}+x_{3}^{2} x_{4} x_{5}+x_{4}^{2} x_{1} x_{5}+x_{4}^{2} x_{2} x_{3}+x_{5}^{2} x_{1} x_{3}+x_{5}^{2} x_{2} x_{4} $

$ \theta_{3}=( 132 ) \theta_{1}=x_{1}^{2} x_{2} x_{3}+x_{1}^{2} x_{4} x_{5}+x_{2}^{2} x_{1} x_{4}+x_{2}^{2} x_{3} x_{5}+x_{3}^{2} x_{1} x_{5}+x_{3}^{2} x_{2} x_{4}+x_{4}^{2} x_{1} x_{3} +x_{4}^{2} x_{2} x_{5}+x_{5}^{2} x_{1} x_{2}+x_{5}^{2} x_{3} x_{4} $

$ \theta_{4}=(12) \theta_{1}=x_{1}^{2} x_{2} x_{3}+x_{1}^{2} x_{4} x_{5}+x_{2}^{2} x_{1} x_{5}+x_{2}^{2} x_{3} x_{4}+x_{3}^{2} x_{1} x_{4}+x_{3}^{2} x_{2} x_{5}+x_{4}^{2} x_{1} x_{2}+x_{4}^{2} x_{3} x_{5}+x_{5}^{2} x_{1} x_{3}+x_{5}^{2} x_{2} x_{4} $

$ \theta_{5}=( 23 ) \theta_{1}=x_{1}^{2} x_{2} x_{4}+x_{1}^{2} x_{3} x_{5}+x_{2}^{2} x_{1} x_{5}+x_{2}^{2} x_{3} x_{4}+x_{3}^{2} x_{1} x_{2}+x_{3}^{2} x_{4} x_{5}+x_{4}^{2} x_{1} x_{3} +x_{4}^{2} x_{2} x_{5}+x_{5}^{2} x_{1} x_{4}+x_{5}^{2} x_{2} x_{3} $

$ \theta_{6}=(13) \theta_{1}=x_{1}^{2} x_{2} x_{4}+x_{1}^{2} x_{3} x_{5}+x_{2}^{2} x_{1} x_{3}+x_{2}^{2} x_{4} x_{5}+x_{3}^{2} x_{1} x_{4}+x_{3}^{2} x_{2} x_{5}+x_{4}^{2} x_{1} x_{5} +x_{4}^{2} x_{2} x_{3}+x_{5}^{2} x_{1} x_{2}+x_{5}^{2} x_{3} x_{4} $

。よって$ \theta$の固定部分群がちょうど$F_{20}$であること、すなわち$\mathbb{Q}_f^{F_{20}}=\mathbb{Q}(\theta)$が分かった($F_{20}$の固定体が判明)。
証明終了

さてここで可解性判定の主役となる6次分解式を導入する。

[定義]
$ f_{20}(x):= (x-\theta_{1} ) \cdots (x-\theta_{6} )$という6次多項式を$f$の6次分解式と呼ぶ。

これは直前の議論より$ \mathbb{Q}$係数である。$ f_{20}(x)$を実際に書き下すと以下のようになる。

特に以下が成り立つ(コピペ用の書式にしている)。

$ x^{5}+a x+b$の6次分解式は

x^6+8*a*x^5+40*a^2*x^4+160*a^3*x^3+400*a^4*x^2+(512*a^5-3125*b^4)*x+(256*a^6-9375*a*b^4)

一つ補題を示す。これも一般のn次で成立。


[補題1]
$ \mathbb{Q}(\theta_1,\cdots ,\theta_6)=\mathbb{Q}_f$

証明
これは実はとても一般的な状況である、$ x_{1}, x_{2}, x_{3}, x_{4}, x_{5}$を変数とみなした状況でも成立する。以下それを示す(それが出来れば後は$ x_{1}, x_{2}, x_{3}, x_{4}, x_{5}$に根を代入するだけである)。

ガロア拡大$ \mathbb{Q}_f/\mathbb{Q}$のガロア群は
補題より$ S_5$(と同型)である。よって$ {\rm Gal}(\mathbb{Q}_f/\mathbb{Q})$は$ \{ \theta_{1}, \theta_{2}, \theta_{3}, \theta_{4}, \theta_{5}, \theta_{6} \} $ に可移に作用するので$ f_{20}$は$\mathbb{Q}$上既約である(?)。

$ \mathbb{Q}(\theta_1,\cdots ,\theta_6)$の固定部分群を$ N$とする。$ \mathbb{Q}(\theta_1,\cdots ,\theta_6)/\mathbb{Q}$はある多項式の最小分解体ゆえガロア拡大であるから$ N$は$ S_5$の正規部分群である。よって$ N=1,A_5,S_5$である。ここで$ [ K ( \theta_{1} ) : K] =6$より$ N=1$がわかる。以上より$\mathbb{Q}(\theta_1,\cdots ,\theta_6)=\mathbb{Q}_f^N=\mathbb{Q}_f^1=\mathbb{Q}_f$。
証明終了



6次分解式は次の定理の系により、可解性の判定に非常に役に立つものである。

[定理]
既約5次多項式fに対して
$ G_f$が$F_{20}$のある共役に含まれる$ \iff f$の6次分解式$ f_{20}$が有理数解を持つ

によると一般の次数でもこれに相当するものが考えられるようだ。もし余裕があればそこにある論文も解読したい。)




[定理]の証明
$ F_{20}$のある共役に含まれるから、ある$ \theta_i$を固定する*3

逆に$ f_{20}$が有理数解を持つとする。その有理解を$ \theta_1$としても一般性を失わない。

簡単に、$ G$と共役な$ G'$があって$ G'$$ <$$ F_{20}$がわかる。

証明終了

$ f$は既約であるからそのガロア群$ G$はコーシーの定理より位数5の元$ \rho $を含み*4、これは長さ5のサイクルである*5。ここで$ f$の既約性より$ {\rm Gal}(\mathbb{Q}_f/\mathbb{Q})$の$ \{x_{1}, x_{2}, x_{3}, x_{4}, x_{5}\}$への作用は推移的、したがって$ \{\theta_{2}, \theta_{3}, \theta_{4}, \theta_{5},\theta_6\}$への作用も推移的である。ここで上の補題1より
$ {\rm Gal}(\mathbb{Q}_f/\mathbb{Q})$
$ ={\rm Gal}(\mathbb{Q}(\theta_1,\cdots ,\theta_6)/\mathbb{Q})$
$ ={\rm Gal}(\mathbb{Q}(\theta_2,\cdots ,\theta_6)/\mathbb{Q})$
であることを合わせれば$ f_{20}(x)/(x-\theta_1)$は既約である。したがって$ f_{20}$は$\mathbb{Q}$上1次式と既約5次式に分解される。

ここで$ G$は$ f$の既約性より可移であるため位数は5の倍数であることを鑑みると、位数の候補は5,10,15,20である。するとそのリンク先の主定理の証明より$ G'$は$F_5,F_{10},F_{20}$のいずれかに共役であり、

[系]
既約5次多項式fに対して
$ f$が可解$ \iff f$の6次分解式$ f_{20}$が有理数解を持つ

余談だがこのとき有理数解は唯一つしか持たない。
(理由:$ i=1$であるとしても一般性を失わない。このとき$ G$が$ F_{20}, F_{10},F _5$のいずれかに等しいので$\sigma =(1 2 3 4 5)$を含む。

$ \sigma$ は$ \{\theta_{2}, \theta_{3}, \theta_{4}, \theta_{5}, \theta_{6}\}$に推移的に作用するので、これらのうちどれか二つでも等しかったら全て等しくなり、そのとき$\mathbb{Q}(\theta_1,\cdots ,\theta_6)/\mathbb{Q}$の拡大次数は6となる。ここで上の補題1と合わせると$ {\rm Gal}(\mathbb{Q}_f/\mathbb{Q})=F_{s}(s=5,10,20)$の位数が6であることになり矛盾する。従って$ \theta_{2}, \theta_{3}, \theta_{4}, \theta_{5}, \theta_{6}$は互いに相異なり、有理数ではない)

可解な五次方程式の代数的解法

以下$ x_{1}, x_{2}, x_{3}, x_{4}, x_{5}$を根に持つ$\mathbb{Q}$係数五次多項式
$f(x)=x^{5}+s_{2} x^{3}-s_{3} x^{2}+s_{4} x-s_{5}$
を考える。平行移動の変数変換により$x^4$の項を消去した。

【警告】ここで気を付けてほしいのが以下の議論は全て$ x_{1}, x_{2}, x_{3}, x_{4}, x_{5}$を変数としてみて行っているということである(この状況を普遍拡大といったりする。の状況である)。よって、上で扱った6次分解式の根$\theta$も有理数とは扱わない。実際に個々の結果を応用するときに初めてそれを有理数とみる(具体例を考えるときになって初めて$ x_{1}, x_{2}, x_{3}, x_{4}, x_{5}$に根を代入する、という考え方である)。

(PDFではここで1の5乗根$\zeta$を添加したときのガロア群について考察しているがこの段階では必要ないと思われる。しばらくは下に出てくる$ l_{0}, \cdots, l_{4}$を考察するためである(これは定義から$\zeta$からは分離された対象であるからである)。)

ゾルベントの導入

まず$ (x_{1}, z )=x_{1}+x_{2} z+x_{3} z^{2}+x_{4} z^{3}+x_{5} z^{4}$とし、リゾルベント(参考:

$ r_{0}= (x_{1}, 1 ) =x_{1}+x_{2}+x_{3}+x_{4}+x_{5}=0 $
$ r_{1}= (x_{1}, \zeta ) =x_{1}+x_{2} \zeta+x_{3} \zeta^{2}+x_{4} \zeta^{3}+x_{5} \zeta^{4} $
$r_{2}= (x_{1}, \zeta^{2} ) =x_{1}+x_{2} \zeta^{2}+x_{3} \zeta^{4}+x_{4} \zeta+x_{5} \zeta^{3}$
$r_{3} = (x_{1}, \zeta^{3} )=x_{1}+x_{2} \zeta^{3}+x_{3} \zeta+x_{4} \zeta^{4}+x_{5} \zeta^{2} $
$ r_{4} = (x_{1}, \zeta^{4} )=x_{1}+x_{2} \zeta^{4}+x_{3} \zeta^{3}+x_{4} \zeta^{2}+x_{5} \zeta $
を考える。

そこの参考のリンク先同様、これらが求まれば解が求まるのであった*6。よって以下これら4つのリゾルベントを求めることに専念すればよい。


これらの両辺を5乗したものを以下のように置く。
$R_{1}=r_{1}^{5}= (x_{1}, \zeta )^{5}=l_{0}+l_{1} \zeta+l_{2} \zeta^{2}+l_{3} \zeta^{3}+l_{4} \zeta^{4}$
$ R_{2}=r_{2}^{5}=l_{0}+l_{3} \zeta+l_{1} \zeta^{2}+l_{4} \zeta^{3}+l_{2} \zeta^{4}$
$ R_{3}=r_{3}^{5}=l_{0}+l_{2} \zeta+l_{4} \zeta^{2}+l_{1} \zeta^{3}+l_{3} \zeta^{4} $
$ R_{4}=r_{4}^{5}=l_{0}+l_{4} \zeta+l_{3} \zeta^{2}+l_{2} \zeta^{3}+l_{1} \zeta^{4}$

ここで$,l_1,l_{2},l_{3},l_{4}$が求められれば、所望の根全体は得られることがわかるので以下これらを求めることを目標とする。各$ l_{0}, \cdots, l_{4}$を明示した式はPDFに載っているので必要があれば参照されたい(想像に難くないようにかなり複雑な式である)。

ここで$l_{0}+l_{1}+l_{2}+l_{3}+l_{4}= (x_{1}, 1 )^5= (x_{1}+x_{2}+x_{3}+x_{4}+x_{5} )^{5}=0$であることに注意する。


今のところ拡大の状況は以下のようになっている。
$\mathbb{Q}_f:=\mathbb{Q}(x_{1}, x_{2}, x_{3}, x_{4}, x_{5})\supset \mathbb{Q}_f^{F_{5}}\supset \mathbb{Q}_f^{F_{10}}\supset \mathbb{Q}_f^{F_{20}}=\mathbb{Q}(\theta)\supset \mathbb{Q}$
以下これを解明していく(緑で書かれたところの事実により判明する)。


補助多項式$g$の導入

さて、ここである多項式を導入する。

[定義]

$\mathbb{Q}(\theta)$係数多項式$g(x):= (x-l_{1} ) (x-l_{2} ) (x-l_{3} ) (x-l_{4} )$を$f$の補助多項式と呼ぶ。また$g(x)$の最小分解体を$E:=\mathbb{Q}(\theta,l_1,l_{2},l_{3},l_{4})$とおく。

$g(x)$のガロア群${\rm Gal}(E/\mathbb{Q}(\theta))$の元$\tau$は根を$l_1\to l_2\to l_4\to l_3\to l_1$というように置換するのでガロア群の根全体への作用は推移的。従って$g(x)$は$\mathbb{Q}(\theta)$上既約である。


ここで実は次が成り立つ

[補題2]
$E=\mathbb{Q}(\theta,l_1)$
証明
まず$g(x)$の既約性より
$[\mathbb{Q}(\theta,l_{1}) :\mathbb{Q}(\theta)]=4$
である。

また$l_{1}$は$\sigma$で不変なので
$\mathbb{Q}(\theta,l_{1}) \subset \mathbb{Q}_f^{F_5}$
である。
$[\mathbb{Q}_f^{F_5} : \mathbb{Q}(\theta)]$
$=[\mathbb{Q}_f : \mathbb{Q}(\theta)]/[\mathbb{Q}_f :\mathbb{Q}_f^{F_5}]$
$=[\mathbb{Q}_f :\mathbb{Q}_f^{F_{20}}]/[\mathbb{Q}_f :\mathbb{Q}_f^{F_5}]$ (最初の節の冒頭で示した$\theta$の固定部分群がちょうど$F_{20}$であるという事実から)
$=(F_{20}:1)/(F_{5}:1)$ (ガロア対応)
$=20/5$
$=4$
である。これら3つを合わせると、線形代数の定理より$\mathbb{Q}_f^{F_{5}}=\mathbb{Q}(\theta,l_1)$が分かる($F_{5}$の固定体が判明)。

ここで$l_{2}, l_{3}, l_{4} \in \mathbb{Q}(\theta,l_{1})^{F_5}=\mathbb{Q}(\theta,l_{1})$であるから
$\mathbb{Q}(\theta,l_{1})=\mathbb{Q}(\theta,l_{1}, l_{2}, l_{3}, l_{4})=E$
を得る。よって示された。
証明終了


補助多項式の分解

$l_{1}+l_{4}, l_{1} l_{4}, l_{2}+l_{3}, l_{2} l_{3}$は$\tau^{2}$で不変なので$E^{\langle\tau^{2}\rangle}=(\mathbb{Q}_f^{\langle\sigma^{2}\rangle})^{\langle\tau^{2}\rangle}= \mathbb{Q}_f^{\langle\sigma, \tau^{2}\rangle}=\mathbb{Q}_f^{F_{10}}$の元である。

また$[E^{\langle\tau^{2}\rangle} : \mathbb{Q}(\theta)]=[\mathbb{Q}_f^{F_{10}} : \mathbb{Q}_f^{F_{20}} ]=(F_{20}:1)/(F_{10}:1)=2$であるから線形代数の定理より$\mathbb{Q}_f^{\langle\sigma, \tau^{2}\rangle}=\mathbb{Q}(\theta,\Delta_{f})$が分かる($F_{10}$の固定体が判明)。

従って結局$l_{1}+l_{4}, l_{1} l_{4}, l_{2}+l_{3}, l_{2} l_{3}\in\mathbb{Q}(\theta,\Delta_f)$がわかり、$ T_{1},T_{2},T_3,T_4\in \mathbb{Q}(\theta)$を用いて
$ l_{1}+l_{4} =-T_{1}-T_{2}\Delta_f,l_{1} l_{4} =T_{3}+T_{4} \Delta_f $
とおける。これらの両辺に$\tau$を作用させると
$l_{2}+l_{3} =-T_{1}+T_{2} \Delta_f , l_{2} l_{3} =T_{3}-T_{4} \Delta_f $
を得る。

以上より補助多項式$g$の分解


$g= (x^{2}+ (T_{1}+T_{2} \Delta_f ) x+ (T_{3}+T_{4} \Delta_f ))(x^{2}+ (T_{1}-T_{2}\Delta_f) x+ (T_{3}-T_{4} \Delta_f)) $

が得られ、これより$ T_{1},T_{2},T_3,T_4$を求められれば2次方程式を解くことで$,l_1,l_{2},l_{3},l_{4}$が得られることが分かった。


その前に一応、ここまでに得られたガロア対応を図にしておくと以下のようになる。

補助多項式の因子の計算(最後のステップ)

以下$ T_{1},T_{2},T_3,T_4$を求めていこう。

$\mathbb{Q}(\theta)/\mathbb{Q}$は6次拡大であるので$\mathbb{Q}(\theta)$の元$P$は$\mathbb{Q}$一次結合、$ P=\alpha_{0}+\alpha_{1} \theta+\alpha_{2} \theta^{2}+\alpha_{3} \theta^{3}+\alpha_{4} \theta^{4}+\alpha_{5} \theta^{5}$の形で表せる。ここで$P=T_i (i=1,\cdots,4),\theta_1:=\theta$とおき$S_5/F_{20}$の代表元を作用させると以下のような式が得られる。

$ P =\alpha_{0}+\alpha_{1} \theta_{1}+\alpha_{2} \theta_{1}^{2}+\alpha_{3} \theta_{1}^{3}+\alpha_{4} \theta_{1}^{4}+\alpha_{5} \theta_{1}^{5} $
$ (123) P =\alpha_{0}+\alpha_{1} \theta_{2}+\alpha_{2} \theta_{2}^{2}+\alpha_{3} \theta_{2}^{3}+\alpha_{4} \theta_{2}^{4}+\alpha_{5} \theta_{2}^{5} $
$ (132) P =\alpha_{0}+\alpha_{1} \theta_{3}+\alpha_{2} \theta_{3}^{2}+\alpha_{3} \theta_{3}^{3}+\alpha_{4} \theta_{3}^{4}+\alpha_{5} \theta_{3}^{5} $
$ (12) P=\alpha_{0}+\alpha_{1} \theta_{4}+\alpha_{2} \theta_{4}^{2}+\alpha_{3} \theta_{4}^{3}+\alpha_{4} \theta_{4}^{4}+\alpha_{5} \theta_{4}^{5}$
$ {(23) P=\alpha_{0}+\alpha_{1} \theta_{5}+\alpha_{2} \theta_{5}^{2}+\alpha_{3} \theta_{5}^{3}+\alpha_{4} \theta_{5}^{4}+\alpha_{5} \theta_{5}^{5}} $
$ {(13) P=\alpha_{0}+\alpha_{1} \theta_{6}+\alpha_{2} \theta_{6}^{2}+\alpha_{3} \theta_{6}^{3}+\alpha_{4} \theta_{6}^{4}+\alpha_{5} \theta_{6}^{5}}$

ここで各$\alpha_j$を未知数とみてこの連立方程式を解けば各$\alpha_j$が求まるので$P=T_i$も求まる。ただしこの連立方程式の左辺は補助多項式gの分解のところの式を使って(例えば$P=T_1$なら$T_1=-(l_{1}+l_{2}+l_{3}+l_{4})/2=l_0/2$を使って)$ x_{1}, x_{2}, x_{3}, x_{4}, x_{5}$の多項式にする。

ここで分母はヴァンデルモンドの行列式*7より$ |A|=-\displaystyle\prod_{i{\text <} j}^{6} (\theta_{i}-\theta_{j} )=\Delta_{f}^{3} $($ x_{1}, x_{2}, x_{3}, x_{4}, x_{5}$の対称式)となるので難はない。分子はとても複雑な式になるが$\alpha_j$は有理数にならねばならないので必ず$ x_{1}, x_{2}, x_{3}, x_{4}, x_{5}$の対称式となるはずで、それゆえ原理的に計算は可能である。



こうしてめでたく$ T_{1},T_{2},T_3,T_4$を計算する方法が無事分かったわけだが、これを計算するのは計算機を用いても中々厳しい。ここでは以下に$x^{5}+a x+b$の場合の式をあげるにとどめる(コピペ用の書式にしている)。

T_1=(512*a^5-15625*b^4+768*a^4*θ+416*a^3*θ^2+112*a^2*θ^3+24*a*θ^4+4*θ^5)/(50*b^3)

T_2=(3840*a^5-78125*b^4+4480*a^4*θ+2480*a^3*θ^2+760*a^2*θ^3+140*a*θ^4+30*θ^5*)/(512*a^5*b+6250*b^5)

T_3=(-18880*a^5+781250*b^4-34240*a^4*θ-21260*a^3*θ^2-5980*a^2*θ^3-1255*a*θ^4-240*θ^5)/(2*b^2)

T_4=(68800*a^5+25000*a^4*θ+11500*a^3*θ^2+3250*a^2*θ^3+375*a*θ^4+100*θ^5)/(512*a^5+6250*b^4)

$ T_{1},T_{2},T_3,T_4$を求められれば$,l_1,l_{2},l_{3},l_{4}$が得られ、$l_1,l_{2},l_{3},l_{4}$が求められれば$R_1,R_{2},R_{3},R_{4}$が求まり、これらの5乗根をとればリゾルベントが求まるので欲しかった5次方程式の根が求まる。


最後の詰めとなる細かい話

ここまでの議論にて目的はほぼ果たされたわけであるが細かい話をすると$,R_1,R_{2},R_{3},R_{4}$の5乗根をとるときに当然安直に考えれば各々に対して5通りの選び方が出来るわけであるで、それらをどのように選択すれば欲しい根が得られるのかというところまで考察しなければならない。以下それについて説明するが、余裕がある読者のみ読めばいいと思う。ただし詳細は和訳PDFにゆだねることにしてここでは大枠を述べる。これを解決するのが以下の関係式である。

[和訳PDF補題4.7直後]

$r_{1} r_{2}^{2}+r_{4} r_{3}^{2}=u+v \sqrt{5} \Delta_{f} (u,v\in \mathbb{Q}(\theta))$、$r_{3} r_{1}^{2}+r_{2} r_{4}^{2}=u-v \sqrt{5} \Delta_{f}$

右の式は左の式に$\tau$を作用させて得られるものである。

特に、

$ x^{5}+a x+b$のときは

$u= 0$
v =(-2048*a^7+25000*a^2*b^4-3072*a^6*θ-6250*a*b^4*θ-1664*a^5*θ^2-3125*b^4*θ^2-448*a^4*θ^3-96*a^3*θ^4-16*a^2*θ^5)/(32000*a^5*b^3+390625*b^7)

である。

となる。ここで実はこの事実から$r_1$を決めれば残りの$r_2.r_3,r_4$は一意に決まることが示される(和訳PDF補題4.8)。よって、5乗根の取り方は$R_1$の自由度だけあり、しっかり根は5つ考えられることになってつじつまが合う。

またそれ以前に$,l_1,l_{2},l_{3},l_{4}$には以下のような制約も実はあるため、これを満たすように選ばなければならないことにも注意しなければならない。

[和訳PDF補題4.6]

ある$c\in \mathbb{Q}(\theta)$が存在して$\left(l_{1}-l_{4}\right)\left(l_{2}-l_{3}\right)=c \Delta_{f} $

特に、

$ x^{5}+a x+b$のときは

c=(-1036800*a^5+48828125*b^4-2280000*a^4*θ-1291500*a^3*θ^2-399500*a^2*θ^3-76625*a*θ^4-16100*θ^5)/(256*a^5+3125*b^4)

である。

(和訳PDF補題4.8の証明を読むには和訳PDF補題4.7を読まねばならず、これには$\operatorname{Gal}(E(\zeta) / K)=F_{20} \times\langle\omega\rangle$という式(この記事の記法で言えば$\operatorname{Gal}(\mathbb{Q}_f(\zeta) / \mathbb{Q}(\theta))=F_{20} \times\langle\omega\rangle$である。ただし$\omega$は$\omega:\zeta\mapsto\zeta^3$を満たす写像である)と「既約5次多項式の判別式は可解であるとき正」(和訳PDF補題4.5)という事実が使われているが、前者についてはp.59~60にかけて解説されているのでそこを読めばよい。そこには明示されていないがこのガロア群の計算にはガロアの推進定理が使われている(合成体のガロア群の計算なので)。また和訳PDFでは$F,K$の合成体を$F\vee K$という特殊な記法で書いているので注意されたい。和訳PDF補題4.8自体はただの背理法と単純計算なので難はないはずである。)

以上のことに気を付ければ5次多項式の根の決定問題は完全に解かれる。あとは解の順番など些細な問題(?)があるがこれは和訳PDFに異様に詳しく書いてある(p.70~72)。これをもって可解な五次方程式の代数的解法は完璧に提示された。

実際に5次方程式を解く具体例


ひとまず和訳PDFの例をそのまま引用する。

他にも色々な例を探ってみるといいだろう。コピペ用に置いておいた式なども活用されたい。

あとがき

本稿の内容は筆者が高校生のころからずっと理解を夢見てきたものである。和訳PDFは某所で見つけてからというものの印刷して何年もずっとわからないながらに眺めてきた。そしてこれを大雑把に理解出来たのが去年の今頃であった。行間を埋めるのには中々苦労させられたがある人に本当に助けられ、なんとかここまで書けるに至った。ここで感謝の意を示したい、本当にありがとうございました。

ところで調べ物をしていくうちにこのようなページに出会ったhttps://www.minamiazabu.net/math/tsubuyaki/141023/141023-44.html。どうやら2014年に高校三年生の三人組がすでに可解な5次方程式の例を見出し、マスフェスタというところで発表していたらしいのである。おそらくそのときの資料がhttps://otemae-hs.ed.jp/ssh/dat/2014mathfesta_report.pdfのp.22で、参考文献に「雪江明彦 代数学 2 環と体とガロア理論」とあるのでおそらくそこの方程式のところの議論を参考にしたのだと思うが、それにしてもこれには驚いた。$F_{20}$のresolvent invariantを見出し、補助方程式も置いて、実際に解く流れを完全に理解していたようである(ただおそらく補助多項式の因子の係数を計算するところが出来ずに、実際に解くところまでは実現できなかったように見受けられる)。ネット上では忘れられているのかそもそも発見されていないのか、これに関する言及が見つからなかったのでここに記しておく。

2か所行間の埋まっていない箇所があるが(「(?)」とあるところ)、とりあえず公開しようと思った。またとりあえずこれで最低限の体裁はなしているが、今後いろいろと(特に最後のPDFに投げたところなどを)書き加える可能性はある。間違いなどに気づいた方はぜひご連絡ください。

*1:元論文の方が読みやすい。最初に付け加わったガロア理論の章なども結構わかりにくく、本題の方も不必要に一般的な議論をしていたりしていてわかりにくい

*2:これは$ \forall g,h\in S_5/F_{20}(g\neq h), g^{-1}h\notin F_{20}$を言えばよい。これは$ \forall x\in S_3\setminus \{e\}, x\notin F_{20}$が言えれば十分だが$ F_{20}$の元は単位元を除いて全て4または5を動かすことが地道に確認出来るので言える。

*3:これら三つの群は$\theta_1$を不変にする。ここで$G=g^{-1}F_{s}g(s=5,10,20)$であるとき$(g\in G\setminus F_{s})$、$\theta_i=g^{-1}\theta_1$となる$\theta_i$を取ればよい

*4:一般に多項式の既約性とそのガロア群の根全体への作用が推移的であることは同値である。以下の議論でもこの同値性を使っていく

*5:一般に$ S_p$の位数$ p$の元$ g$は長さ$ p$のサイクルである($ p$は素数)。$ g$を互いに素なサイクルに分解したとき位数がそれら長さの最小公倍数に等しいので$ g$自身がサイクルでなくてはならないからである。

*6:明示的に説明するなら $x_{1} = (r_{1}+r_{2}+r_{3}+r_{4} ) / 5,$ $x_{2} = (\zeta^{4} r_{1}+\zeta^{3} r_{2}+\zeta^{2} r_{3}+\zeta r_{4} ) / 5, $ $x_{3} = (\zeta^{3} r_{1}+\zeta r_{2}+\zeta^{4} r_{3}+\zeta^{2} r_{4} ) / 5, $ $x_{4} = (\zeta^{2} r_{1}+\zeta^{4} r_{2}+\zeta r_{3}+\zeta^{3} r_{4} ) / 5, $ $x_{5} = (\zeta r_{1}+\zeta^{2} r_{2}+\zeta^{3} r_{3}+\zeta^{4} r_{4} ) / 5 $ だからである。

*7:つまり$ A= \begin{vmatrix} {1} & {\theta_{1}} & {\theta_{1}^{2}} & {\theta_{1}^{3}} & {\theta_{1}^{4}} & {\theta_{1}^{5}} \\ {1} & {\theta_{2}} & {\theta_{2}^{2}} & {\theta_{2}^{3}} & {\theta_{2}^{4}} & {\theta_{2}^{5}} \\ {1} & {\theta_{3}} & {\theta_{3}^{2}} & {\theta_{3}^{3}} & {\theta_{3}^{4}} & {\theta_{3}^{5}} \\ {1} & {\theta_{4}} & {\theta_{4}^{2}} & {\theta_{4}^{3}} & {\theta_{3}^{4}} & {\theta_{3}^{5}} \\ {1} & {\theta_{5}} & {\theta_{5}^{2}} & {\theta_{5}^{3}} & {\theta_{5}^{4}} & {\theta_{5}^{5}} \\ {1} & {\theta_{6}} & {\theta_{6}^{2}} & {\theta_{6}^{3}} & {\theta_{6}^{4}} & {\theta_{6}^{5}} \end{vmatrix}$ ということである