Period-Mathematics

有限群に対する可解群の定義の同値性の証明

可解群の定義は交換子列が有限でとまる(最後が自明になる)という記述がよく群論の教科書では採用されているように感じる。しかし本によっては交換子の概念を出さずにやっているものもある(特にガロア理論に関する啓蒙書でよく見る気がする)。具体的には

ある自然数nに対してD^n(G)=1
アーベル的正規列を持つ
各因子が素数位数の巡回群であるような組成列を持つ
巡回的正規列を持つ

の4つである(定義は下にある)。こういうのが混在していると混乱するのでここではこれらの関係について書きたいと思う。結論から言えば「有限群」についてならこれらは同値である(無限群の場合は必ずしも成り立たない)。それを証明しよう。以下「H<G」でHGの部分群であることを表す。

[定義]
Gの部分群の有限降鎖、
G=G_0\supset G_1\supset \cdots \supset G_n=1
が正規列であるとは各iに対してG_i\rhd G_{i+1}が成り立つことを言う。各因子G_i/G_{i+1}巡回群であるとき巡回的正規列、アーベル群であるときアーベル的正規列、単純群であるとき長さnの組成列と言う*1




さて今回重要な役割を果たす対応定理を復習しておこう。

[対応定理]
剰余群\overline{G}:=G/Hの部分群全体の集合\overline{S}Hを含むGの部分群S_Hの間に以下のような対応による全単射が存在する。
\overline{G}>\overline{V}に対して\overline{V}=V/HなるV< Gが一意的に存在する
この対応により正規部分群も一対一対応する。また第三同型定理より(U:V)=(\overline{U}:\overline{V})
証明は群論の専門書を参照されたい。


[補題]
有限アーベル群G|G|の任意の約数を指数にもつ部分群をもつ。
証明
(初等的にもできるかもしれないが)有限アーベル群の基本定理を認めればすぐに従う。
証明終了


[Oreの定理*2]
Gを有限群、pGの位数の最小の素因数とする。部分群H(G:H)=pを満たすとき、HG正規部分群である
証明は例えば|G|の最小の素数の約数をpとする。Gは指数pの部分群Hを含む有限群とする。HはGの... - Yahoo!知恵袋を参照のこと。



さて本題である。

命題
有限群Gに対する以下の命題は同値
(a)ある自然数nに対してD^n(G)=1
(b)アーベル的正規列を持つ
(c)各因子が素数位数の巡回群であるような組成列を持つ
(d)巡回的正規列を持つ
証明
(a)\iff (b)*3
G=G_0\supset G_1\supset \cdots \supset G_n=1をアーベル的正規列とすると、D(G_i)\subset G_iであるから数学的帰納法によってD^i(G)\subset G_i。従ってD^n(G)\subset G_n=1であるので片方が従う。逆は自明。
(b)\iff (c)
帰納法で示す。Gがアーベル的正規列G=G_0\supset G_1\supset \cdots \supset G_n=1を持つとする。ここでG/G_{1}はアーベル群なので補題より(G/G_{1}:N/G_{1})|G|の最小の素因数pとなるような部分群N/G_{1}が取れる。ここで対応定理より(G:N)=(G/G_{1}:N/G_{1})=pであるのでOreの定理よりNG正規部分群である。よって再び対応定理よりN/G_{1}G/G_{1}正規部分群である。 よって帰納法の仮定より各因子が素数位数の巡回群であるようなNの組成列N\supset N_1\supset \cdots \supset N_m=1がとれる。ここでG\supset N\supset N_1\supset \cdots \supset N_m=1は今までの議論より各因子が素数位数の巡回群であるようなGの組成列となる。よって片方が従う。逆は自明。
(c)\Rightarrow (d),(d)\Rightarrow (a)は自明である。
証明終了

*1:ジョルダン・ヘルダーの定理によれば組成列は本質的に一意である。この定理によって任意の有限群は有限単純群の積み重ねであると解釈でき、従って有限単純群の分類問題の重要性が了解されると思う。詳細は群論の専門書を参照のこと。

*2:p=2の場合がよく知られている

*3:証明からもわかるようにこれは有限群でなくとも成り立つ